2003.12.10 RAM LAB(倉数茂 編)


アルンダティ・ロイ
『帝国を壊すために ─戦争と正義をめぐるエッセイ─』
    Arundhati Roy
本橋哲也訳 岩波新書、2003年

【概要】
インド人女性作家アルンダティ・ロイは、2003年9月以降世界を覆った虚偽と扇動に対して警鐘を鳴らしている。ジョージ・ブッシュJr.による無法なアフガン戦争、イラク戦争ばかりではない。12億の人口を抱えるインドでは、ヒンドゥーナショナリズムを煽り、ムスリムを虐殺した張本人たちが政権の中枢におさまっている。パキスタンとインドの政治指導者は、互いを非難しながら、核戦争の危機にアジアの民衆を引きずり込んでいる。現在の世界では、戦争を行うこと、少なくとも戦争の危機を演出することが、もっとも有効な選挙対策になってしまった。悪質なプロパガンダが、喝采を浴びるための近道になってしまった。

戦争はいつも軍需産業や多国籍企業の利益と結びついている。大企業主導のグローバリゼーションは、決して国家の力を弱めることはなかったし、人権の尊重や移動の自由をグローバルに拡大することもなかったとアルンダティ・ロイはいう。市場の隠れた手は隠れた拳を必要とし、マクドナルドはマクドネル・ダグラスなしでは繁栄できない。つまり多国籍企業の利益は、国家の暴力によって護られてきた。自由な市場が破壊するのは国境などではなくて民主主義である。

しかし現在の事態は、かつてないほどあらわに企業と国家の指導者が操縦する「帝国」という機械の狂ったメカニズムを剥き出しにしたとも彼女は主張する。つまり、「帝国」を壊すための設計図が明らかになったと言うのである。アメリカ政府が世界最強であるとしても、まちがいなくさらに強いものがある。アメリカの市民社会こそ、アメリカの政府や軍隊よりも大きな力を持っている。そしてブッシュやブレアに反対して立ち上がった各国の市民も。ブッシュやブレアが主張する物語とは違う物語を語る能力によって、異なる世界を思い描く想像力によって、わたしたちは政府を否定し、この世界を破壊する企業の製品を拒否できる。「覚えておこう──わたしたちは多く、彼らは少ない。わたしたちが彼らを必要としているよりも、彼らのほうがわたしたちを必要としているのだ、ということを。」

【抜粋】
「わたしたちを今日おおっている闇のとばり、そのなかでも、わたしは用心深くありながら、同時に希望を捨てないよう呼びかけたい。戦争時にはだれでも、自分の敵のなかでいちばん弱い者が、その軍隊の長であることを願うにちがいない。大統領ジョージ・W・ブッシュがまさにそれ。普通の知能を持った他のアメリカ合衆国大統領なら、まったく同じことをやったにしても、少しはうまい煙幕を張って、敵を混乱させることができただろう。おそらく国連を自分の側に引き入れることだってできたはず。ブッシュは、その知性のかけらも慎重さも一切ないやりかたと、自分の機動隊で世界を支配できるという臆面のない信念でもって、まったく反対のことをやってのけた。ブッシュが成しとげたこと、それはなんと、作家や活動家、学者たちが何十年もやろうとしてできなかったことではないだろうか。彼は隠されていた秘密の導管を暴露してくれたのだ。ブッシュが公衆の前にさらしたもの、それは、アメリカ帝国という、この世の終末を招きよせる機械装置の中核部、ボルトやナットのありか、なのだから。 いまや、その設計図(『民衆のための〈帝国〉ガイド』)は誰の手にも入るようになった。ということは、帝国を壊すことが、権威筋が予言していたのより、早く可能になる、ということ。さあ、スパナを持ちよろう。」

アルンダティ・ロイについて http://website.lineone.net/~jon.simmons/roy/

アルンダティ・ロイのインタビュー http://www.lannan.org/audio/audio_QRST.htm

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