その鳥の啼き声をきいたので
口のなかで苦い調べをまどろっこく舐めてみた
その鳥のすがたを花蔭にみたので
シダレザクラは色ときめき語りかけてやまない
その鳥のしぐさにおどろいたので
通い路のおもかげもくらりと揺らぎだす
息を吸う 吐きだす
(透きとおるみずいろの手紙をもらったまま)
息づかいで ものをはすかいに見やる
(濃紺のペン文字は意志のかどもまあるくて)
息を含む 噛みくだく
(チョコレート菓子の緑としば漬の紫と湯呑みの紅と)
それで 自転車のブレーキの音がする
それで まばたきもせずに ヒメジョオン
それで
春はもうすこしサクラという花びらを吐きだす
それで
それで曇り空でも日が差すという日
それでまた 偲ぶひとの声を耳の底にたどる
それで
四月
どこまで話したのだっけ
籠の鳥がいなくなりました
どこに行ったのだろう
蛇がのこりました
それはそういうことですか
蛇の腹は白くふくれていました
ああ、どうしよう、どうしようか
蛇の腹は白くふくれていました
あれ見ちゃいけないよ
蛇の腹は白くふくれていました
あの子に行くところはないだろうに
蛇の腹は白くふくれていました
あの子は
あれっきり
あのまま行くところがなかった
それで
四月
まだ 春はサクラを吐きだしていますか
まだ 鳥は花びらをついばみに来ますか
まだ 川の水はぬるみませんか
まだ 忘れられないのですか
まだ ぼうだの泪を流せないのですか
まだ 母の母の母の母の、とつづきますか
それで
ひきだしをあけてみとめましょうか
ひきだしに蛇をしまいましたから
ひきだしもまじないにからんでまして
ひきだしの歳月はいまもって解きほぐせません
それで
どこまで
話したのだっけ
それでねえ
あの日から四月がめぐりくるたびに
こぎたない二本足になってしまった あたしだ
籠にのこってるだろうに
あれは ぬけがら
あの日から あたしだよ
そうだった
スズメノ
カタビラ
だった
首すじに川の水が
つーっと伝わってきて
重い頭をもたげられないのだ
それで
四月 |
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